「企業寿命30年説」
「企業の寿命は30年」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。いわゆる「企業寿命30年説」は1983年に経済情報誌の日経ビジネスに掲載された記事が発端と言われています。
この説に関しては有名な経営者の中でも、例えば三菱金属鉱業株式会社(現:三菱マテリアル株式会社)時代の永野健社長が「企業にも当然寿命がある。組織も技術も成長期からやがて爛熟期を迎える。精練所の場合ならこのライフサイクルは30年足らずに過ぎない、というのが私の実感だ。」という言葉や、
日本電気株式会社(NEC)の小林宏治会長も「企業が成長段階から成熟、そして衰退期を迎えるライフサイクルは、何もせずに放っておく限り30年程度に過ぎない。」という、企業寿命30年説に類似した言葉を過去に残しています。
「企業寿命30年説」に関連するようなデータ面で見てみると、東京商工リサーチによる「倒産企業の平均寿命」に関する調査では、2023年に倒産した企業の平均寿命は「23.1年」という結果が出ています。
図表にあるように、製造業が36.3年で最も高く、金融・保険業が15.0年で最も低い、など産業別によって数字のバラつきはありますが、2009年から2023年までの間、2009年、2010年とリーマンショックの影響があった年を除けば、倒産企業の平均寿命は23年~24年の間で良くも悪くも「安定的」に推移していると言えます。
もう1つのデータとして、同じく東京商工リサーチによる「企業の平均年齢」調査によると、製造業が42.11年と最も高く、「産業」自体の歴史が浅い情報通信業が23.15年と最も低いという形で、こちらも産業別に差はありますが、2021年の国内157万社の平均年齢(業歴)は、「34.1年」という結果が出ています。
これらのデータから、明確に「企業の寿命は30年」というには若干の数字の上下はありますが、企業成長の1つの壁として「創業30年の壁」が存在すると言えるのではないでしょうか。
創業30年を超えている企業の割合
実際に創業30年を超えている企業はどれくらいあるのでしょうか。
先述した東京商工リサーチによる「企業の平均年齢」調査において、157万社を業種別に業歴構成したデータがあります。
そのデータによると、創業30年を超えている企業の割合は、製造業が最も高く73.07%で、情報通信業が最も低く29.41%、全業種を平均すると53.2%となっています。
高度経済成長期は自動車産業を中心に、特に製造業が盛んであり、日本の経済力の中枢であったため、その産業自体の歴史もさることながら、業種によって数字が大きく異なっていますが、平均すると日本の企業の約半数が創業30年を超えている企業だということが分かります。
帝国データバンクでも同じように約146万社を対象に業歴別企業数のデータを出していますが、こちらは創業30年という括りではなく、50年未満かそれ以上、というカテゴライズをしているため、創業30年以上の会社の割合は明確に出ておりませんが、創業50年未満の会社の割合が図表にある通り、67.5%という数値が出ています。
これらの割合から創業30~50年の会社の割合を抜いて、創業50年以上の32.5%と足し合わせた数字が創業30年以上の会社の割合となりますが、ざっくり計算すると50年から20年分、つまり67.5%の5分の2の数値は27%なので、32.5%と足し合わせて約60%となり、こちらのデータにおいても約半数以上が創業30年を超えている会社の割合ではないか、という1つではなく2つのデータにおける裏付けで仮説が成り立ちます。
日本は「長寿企業」が断トツに多い
もう少しマクロ的な観点でみてみると、そもそも世界的にみても日本は「長生き企業」が多いのです。
日経BPコンサルティング・周年事業ラボの調査によると、創業100年以上の企業数は日本が3万3,076社で世界第1位であり、世界の100年企業全体に占める割合が41.3%で2位の米国の24.4%に対して17ポイントの差をつけています。
創業200年以上の企業数になるとその傾向はさらに高まり、企業数は1,340社でこちらも日本が断トツのトップです。世界の創業200年を超える企業全体に占める割合は65%で2位の米国の11.6%に対して53ポイントもの差をつけています。
このような結果から、なぜ日本では長生きする企業が多いのかというと、その要因は様々あると思いますが、欧米諸国と比較して会社に対する価値観が異なる、ということが一因にあるでしょう。
日本は欧米諸国と違い、会社を短い期間で利益を大きくするよりも、長く存続することに価値をおいている企業が多いということ、また古くから勤続年数に応じて昇給や役職を与えられるという年功序列システムを取り入れる企業が多いため、良い意味で人材が定着し続けることで安定的な成長、持続を遂げてきたということが言えるのではないしょうか。
ただ、現在がそうであるように、時代によって人の働く価値観、企業としての目的も変化するため、その変化に応じて会社が様々な対策を講じることで創業30年の壁を超え、そして100年を超えるような長寿企業になれるのです。
創業30年の壁を超える考え方
創業30年の壁を超えるための考え方の1つとして、従来の創業オーナー経営から第二創業期、第二成長期を生み出せるような「第二創業組織」へと組織を変革する必要があります。
全ての創業オーナーに該当するわけではありませんが、私がこれまで14年サポートしてきた多くの企業の中で、特に顕著に表れている創業オーナーの特徴をいくつか挙げていきます。
創業オーナーの特徴① リーダーシップと情動で組織を牽引
創業オーナーの特徴の1つ目は、会社や組織をリーダーシップと情動で引っ張っていく傾向が強いことです。
創業オーナー自身の人間的な魅力もあわせて、創業当初の厳しい時代の「会社を大きくする」「なんとかして生き残る」という思いを言葉や行動にし、そのリーダーシップで社員を牽引していきます。
自身で製品・サービスを考え、開発し、営業、納品、アフターフォローまで全てを1人で完結させ、かつその質や量は社内でナンバーワンである、という「スーパーマン」状態です。
特に創業時の社員からは人望が厚く、信頼されており、1つの家族の「長」として会社と社員を守り続けています。
創業オーナーの特徴② 意思決定と行動が早い
創業オーナーの特徴の2つ目は、意思決定と行動が早いことです。オーナー経営であるため、他に株主など意思決定に関わる人もほとんどいないため、創業オーナー自身が「これをやる」「やったほうがいい」と思ったものに関してはすぐに意思決定をし、即行動へと移していきます。
そもそもそういった特性をもっている人が起業をする、ということはもちろん、特に創業当初は自社を成長させること、事業を軌道に乗せることに全神経を注いでいるため、意思決定を先延ばしにしたり、考えるだけで行動に移さない、などという選択肢は創業オーナーにはありません。
創業オーナーの特徴③ 戦略に対する嗅覚が鋭い
創業オーナーの特徴の3つ目は、会社における様々な戦略に対して嗅覚が鋭いことです。自社がビジネスをしている市場への将来的な予測を立て、また外部環境の変化を機敏に感じ取り、それらに対しての対策を判断する力があります。
短期的、中期的、長期的、全ての目線で会社における戦略を常に考えており、変化やリスクを恐れず積極的に戦略を遂行しようとします。
外部環境における戦略の要素だけでなく、内部環境、つまり人や組織における人事戦略についても感が鋭く、「あの社員にはあの役割を与えた方がいい」「あの社員はすぐに役職者にしてマネジメントさせた方がいい」「あの社員の様子が少し変だから今度飲みに誘うか」など、社員の機微を敏感に感じ取って、感覚的に人材と組織をマネジメントしています。
創業オーナーがいないと回らない組織
これらの特徴で会社を引っ張ってきた創業オーナーですが、創業30年の壁を超えるにあたっては、その創業オーナーの勘や嗅覚、リーダーシップで成長してきた組織からモデルチェンジする必要があります。
なぜなら二代目社長の多くが創業オーナーと同じような勘や嗅覚、リーダーシップを持ち合わせていないからです。
「これまでの自社の良い所を残す」という意味では、これまで築き上げてきた組織風土や文化などはそのまま残すことも重要ですが、二代目社長が創業オーナーと丸っきり同じように「感覚」で組織を推進していくことは難しいのです。
当社ではこれまで多くの企業を見てきましたが、創業オーナーが次世代へバトンを渡そうとしている最中で悩んでいる企業、または創業オーナーから二代目社長に徐々に経営を引き継ぎながらも苦戦しており、いつまでも「会長」から卒業できない創業オーナーがいる企業は、「創業オーナーがいなくても回る組織」をつくれていません。
創業オーナーがつくりがちな組織
先述した「創業オーナーの特徴」をご覧いただければお分かり頂けると思いますが、自らのリーダーシップで組織を引っ張り、営業から納品まで全ての工程において「トップ社員」、意思決定と行動が早く、事業や人事の戦略においても鋭い嗅覚で感覚的にマネジメントしている創業オーナーが「会社からいなくなったら」回らなくなるのは想像に難くありません。
私がこれまで多くの企業に携わってきた中で、創業オーナーが「つくりがちな組織」の特徴は大きく分けて2つあります。
1つ目は、創業オーナーは「自分ができていることを言語化」することや「仕組み化、マニュアル化」をはじめとした「組織化」をすることが苦手で、かつ手を打っていない方が非常に多いのです。
良い意味では緊急時に応用が利く、素早い判断と行動ができる組織なのですが、様々なものが整備、仕組み化されていないため、仕事が「人」についてしまっている、いわゆる「属人化」組織になりがちです。
2つ目は、創業オーナーが現場で活躍しており、かつ自身が営業からサービスまで社内でトップの位置にいるため、社員に仕事を任せることがなかなかできず、それゆえ社員が思ったように育たず、結果的に創業オーナー自身が現場から離れることができない、という悪循環に陥っていることです。
この状態だと、創業オーナー自身が疲弊してしまうことや、現場仕事が忙しくて本来の経営者としての仕事である「緊急ではないが重要なこと」への時間がつくれていないこと、また自身の代わりに社員をマネジメントできるマネージャーが育たないため、組織としてのマネジメント力が上がらず、創業オーナー個人の力に依存してしまう組織になりがちです。
これら2つの特徴が、創業オーナー自身が会社からいなくなってしまったら困る組織をつくってしまっていることになります。誤解を恐れずに言えば、「個人事業主の集合体」組織から卒業しなければいけません。
つまり、創業30年の壁を超えるためには、創業オーナーがいなくても回る組織、「第二創業組織」をつくることが求められるのです。
創業オーナーがいなくても回る「第二創業組織」をつくる
では、創業30年の壁を超えるための、創業オーナーがいなくても回る組織、「第二創業組織」とはどのような組織かというと、「創業オーナー個人の感覚型マネジメント」から「組織的仕組み型マネジメント」へモデルチェンジするということです。
創業オーナーのリーダーシップで組織を引っ張る、という形から、ミドルマネジメントを中心としたマネジメントで組織を回し、推進していくという形です。そのマネジメントが組織的に仕組み化されていることで、「トップが不在でも、現場に介入せずとも、マネージャーが入れ替わってもマネジメントが機能する」という状態をつくりだしていきます。
創業オーナーの感覚でできていたマネジメントの在り方は再現性がなく、創業オーナーがいなくなった瞬間に組織が衰退していきます。
そうではなく、ミドルマネジメントを中心とした仕組み化されたマネジメントで組織を回し、創業オーナーがいなくても回る会社、組織にしていくことこそが、組織・マネジメントをモデルチェンジし「第二創業組織」をつくっていく、ということなのです。
==========
ここまで触れた、創業オーナーがいなくても回る会社にするためのノウハウを「3つの要諦」として、以下の書籍に掲載しています。
ぜひご参考にしていただければと思います。
「創業30年の壁」を超える 第二創業組織づくり