いわゆる「親方社長」だった
当社は今でこそ関西で4工場を運営していますが、9年前までは旧本社の1工場のみで、当時は佐々木さんの言葉を借りると、自分自身がまさに「親方社長」をやっていました。1つの工場に全社員がいるので、全員に目が届き、また従業員との距離が物理的にも精神的にも近く、飲みに行っても現場社員からは「親分、親分」と慕われ、当時はとても心地よく感じていました。
しかし仕事は大変でした。現場を見ながら社長としての仕事もしていたのですが、分かりやすい例でいうと、パートさん同士の細かい揉め事1つ1つまで自分に届いてくるのです。ある程度大きい会社であれば、そのような社員の細かい問題などに経営者が介入することはないと思いますが、当時は何と言っても自分が親方社長であり、社員が家族のような組織だったので、そういった細かい諸問題まで全て私が介入せざるを得なかった状況でした。
工場展開により組織化の壁が
そのような日常の大変さがありながらも徐々に売上を伸ばすことができており、顧客からの信頼を重ねていったことで、2つ目の工場を出す大きなビジネスチャンスが訪れました。工場展開をすることで理屈としては売上が2倍になる試算でしたが、片や心の中では「待てよ、今1つの工場だけでも自分がこれだけ大変なのに、もう1つ工場を出したら大変さが倍になるんじゃないか」という不安もありました。
しかし、自分としても会社を大きくしたいとい思いもあり「工場を建てよう」と覚悟をもち決断しました。その結果どうなったかというと、想定外だったのですが、私の仕事が2倍になるどころか半分に減ったのです。工場が2つになったことで、自分の体が1つしかないことから、物理的にこれまで自分がやっていた仕事を社員に任せる必要がありました。それでも運営に支障をきたすことなく、私の仕事が半分に減ったのです。
「これなら問題ない」と思い、その4年後には神戸に3つ目の工場を建てました。その結果、今度は仕事が従来の3分の1になったのです。工場を建てれば建てるほど自分の仕事が楽になる、という好循環を生み出していたように感じていました。
そして去年、大阪の八尾市に4つ目の工場を建てました。するとこのタイミングでコップの水が溢れたかのように様々な問題が出てきたのです。
今までそのようなことはなかったのですが、これまでと同様の社員間でのコミュニケーションがハラスメント扱いとされ問題になったり、新入社員が入ってきても退職が相次いだりと、組織化や人材育成の仕組みがなかったため諸問題をマンパワーで解決せざるを得ず、管理職を中心としたメンバーが疲弊していました。
また、特に苦楽を共にしてきた古株の社員とは距離が離れたと感じていました。会社が成長するに連れて私自身も経営者として必死に成長しようとしていましたが、社員は昔と変わらず安住しているので、お互いの視座がどんどん開いていき、気づいたら古株の社員とはコミュニケーションが上手く取れないようになっていました。
作業はコピペできても組織はコピペできない
これまで工場展開のあり方は、2つ目の工場を出して成功することができたので、単純にその工場の成功モデルを次に出す工場へ「コピペ」することでうまくいっていたのです。しかし、4つ目の工場を出したタイミングでそのような様々な問題が出てくるようになって思ったのは、コピペできるのは「作業」だけだった、ということです。
社員が増えるに連れて、もちろん作業の標準化も重要なのですが、それ以外の採用・配置・教育・評価といった人材をマネジメントする仕組みをつくることが必要なのだと痛感したのです。
振り返ってみると、当時は工場を増やし、業績拡大を重視するあまり、組織づくりや幹部育成などを怠っていたと反省しています。
実はそのことに気づく5年前に、当社の役員である齋藤から「そろそろウチにも人事システムをつくる必要があるのでは」と言ってもらったことがありました。しかし当時の私は「過去に自分で評価システムをつくって社員評価をしていたが、そのシステムで時間をかけて評価しても、システムを使わず自分で鉛筆をなめて評価しても、評価の精度に大差がなかったので労力をかけたくない」とつくることを拒否していました。そのころは工場運営も順調でしたので、システムがなくとも上手くやってきていたので、自分でもその必要性に気づかなかったのです。
着実に良い形が出来上がっている
しかし今の状況を考えると、何としてもこれらの問題を解決し会社を変えなければいけないと思い、様々なリサーチをする中で佐々木さんの書籍に出会いました。佐々木さんの書籍を読んだ時に感じたのは「これ全部ウチのことが書いてあるやん」です。
当社の問題と解決の方向性が書いてあったので「この内容を実施すれば会社は変わる!」と思い、佐々木さんのコンサルティングを導入しました。
現在までは理念、行動指針の策定と、全社員で中期のビジョンのディスカッション、そして人事評価制度の構築、という流れでプロジェクトが進捗していますが、着実に1歩ずつ今の規模に合った「自社の形」を丁寧につくれていると感じています。
人事評価の運用はこれからですが、運用の前の段階ですでに成否は決まっているものだと思っているので、そういった意味では良い形が出来上がっていると思います。
また、管理職とのコミュニケーションのあり方も変わりました。多くの会社がそうだと思うのですが、これまでの当社の会議は、社長の私が一方的に話す「独演会」でした。しかし、佐々木さんのセッションでは「参加者全員が発言する」という環境をつくっているため、社員1人ひとりが主体性をもって臨むことができています。
そのような主体性をもった社員の発言に対して、私自身も気になった発言については管理職と意見交換をすることで誤解がなくなっていき、お互いの理解を深めるコミュニケーションができているように思えます。
こういった佐々木さんのセッションを通して「当社特有の課題」にも気づき、それらの課題を解決していくにあたっての「ひな形」も提供してもらっているため、佐々木さんの進め方は当社にとって非常に有効でやりやすいと感じています。
ワクワクドキドキするようなビジョン
佐々木さんのプロジェクトの中で、全社員で中期経営計画を考えるワークセッションでは、「粗利益30億円」を数字的な目標として立てました。また数字的な目標とは別に、東京への進出もビジョンの1つとして描いています。
これらの目標は1つの指標として目指していくことはもちろんなのですが、さらに数字ではなく感情的にワクワクドキドキするビジョンを描いていきたいと考えています。
2020年の3月に、新型コロナウイルス緊急事態宣言が出て休校を余儀なくされてお困りのお子様に向けて、当社で「まんぷくこどもべんとう」という活動を実施しました。1日に350食作り、無料で毎日お子さんへ配布する活動で、地域のみなさんにとても喜ばれました。
その活動の最中、特に印象的だったのは社員が一致団結となり笑顔で生き生きと取り組んでいたことです。社会的にも意義あることで共通の目標に向かっていく組織の力というものを、その時改めて実感しました。
このような事例のように、我々が社会に向けてどのように貢献できるか、ワクワクドキドキするようなビジョンをみんなで描いていきたいと思いますね。